「おまえのせいだ」


myself


ぼくはあいつに言う。

「おまえがいるから、ぼくは、」

ぼくは、で、ことばがつまる。
ぼくはなんなんだ。
あいつのせいで、ぼくはなんなんだ。

「ぜんぶおまえのせいなんだよ!」

ぐしゃぐしゃになった頭のなかを
つきとばすようにつきはなす。

ぼくは、なんなんだ。
たしかにきっとあいつのせいなのに。
あいつのせいで、ぼくはなんなんだよ。


「おまえのせいだ…」

ぼくはもういちど、つぶやく。

「おまえがいるから、ぼくは…」

ぼくはもういちど、ことばにつまる。
あいつは表情ひとつかえない。
いつもの冷めた嘲笑をぼくにみせる。


「なにが言いたいんだよ」


まったくあいつの言うとおりだ。
ぼくはなにが言いたいんだよ?
あいつがいるからなんだっていうんだ。

「おまえがきらいだ」

蔑むようにぼくは言う。
あいつはすこしも動じない。
むしろぼくのほうが、動揺する。

「ああ、勝手にしろ。おれもお前が嫌いだ」

あいつはぼくを突き放す。

「お前のそういう、頭の悪いところが嫌いだ」

あいつはぼくを、ぼくがあいつにする以上に、蔑む。


「おまえがいるから…ぼくは…」

ぼくは言う。
ぼくは、あいつに言う。
ぼくは、ぼくに、言う。

「おまえのせいだ…」

ぼくはぼくに繰り返す。
あいつがぼくに溶けてくる。
ぼくはあいつに溶けてゆく。


あいつはいつも冷めた嘲笑をたやさない。
ばかにするように、冷静な正論を言う。

ぼくはそれがとてもきらいだ。
ぼくがこんなにも必死なのに
それをあいつは嘲笑うんだ。

ぼくががんばればがんばるほど、
ぼくが必死になればなるほど、
あいつはぼくの滑稽な醜態を嘲笑う。


だいきらいだ。
おまえなんかだいきらいだ。

ああ。
ぼくなんかだいきらいだ。
だっておまえは、ぼくだもんな。


「おまえがいるから、ぼくは、」

ぼくに溶けたあいつを感じる。

「わかってるよ」


あいつの冷めた目は、忘れられない。





2007/08/18
"myself"

photo material by 乙女失格