ぼくが鈍感だからなのか
理由はわからなかったけれど
たしかにあのこは綺麗になった。



what a beautiful


rubber tennis ball



このぼくといえば
すこし身長が伸びたくらいで
特にかわりばえのない毎日に溺れている。

女の子たちはあのこに
お化粧がどうだとか
髪型がどうだとかって言って取り巻いている。

ぼくはただひたすら
軟式ボールを打っているあのこがすきだった。

無造作な植え込みにはいつだって
ぼくたちがへたくそに飛ばした
軟球が無造作にころがっていて
それを拾い上げるあのこは
スマッシュをかます先輩より
もっと輝いて見えたんだ。

たしかにあのこは綺麗になった。
だけどぼくは、ただひたすら
陽の沈んだコートでひとりきり
軟式ボールを打っているあのこがすきだった。

このぼくといえば
すこし髪の毛が伸びたくらいで
特におもしろみのない毎日に沈んでいる。

男の子たちはひそかに
あのこの彼氏はなんだとか
気になってるひとがいるのかとか言って固まってる。

ボールを直接くらって
萎えた植え込みの雑草に
あのこがちょっとだけ謝った事は
きっとぼくだけしか、知らないとおもう。


ああ、たしかにあのこは綺麗になった。
ぼくが知れるはずのない世界で変わった。

…そしてこのぼくといえば
すこし声音が変わったくらいで
特にかなしくもない毎日を泳いでいる。





2007/02/27
"what a beautiful rubber tennis ball"
photo material by NOION