かえりたい。
ただひたすらそうおもった。

耳たぶは感覚を失くして
ゆびは小刻みにふるえてる。
腿にはたぶん、薄い冷たい膜かなにかが
張り付いているんだとおもう。


意思達色


かえりたい。
ただひたすらそうねがった。
だけどもううごかない。

あしは意味のない棒になった。
うでは価値のない枝になった。
脳みそはたぶん、強い小さい虫かなにかに
こわされているんだとおもう。


きみの言ったことばの意味を
理解するだけの脳みそがたりない。
ただ、赤信号に照らされたきみの頬に
無性に触れたいとだけ、それだけ、おもった。

だけどもうそれは叶わないって
どこかですこし、わかってた。

赤信号に照らされたきみの頬は
機械的なうつくしさで
ひとみがエメラルドにきらめいたときには
もう、2度と触れられない場所にいってしまったんだ。


きみは交差点のむこうがわ。
いろんなものを落としてきたぼくを
交差点のこっちがわに置き去りにして
エメラルドグリーンのひとみで歩いてゆく。

とどかないのは距離の所為だよね。
触れられないのはきっと、この距離の所為だよね。


ぼくのなみだはラスタイエロー。
誰もみてなんかくれないから
毒々しい紅色に変わってしまったよ。

ぼくのなみだはコーラルレッド。
きみのひとみは、きっといつまでも
エメラルドグリーンに、ひかっていて。


かれは交差点のむこうがわ。
紅いなみだをたれ流すぼくを
交差点のこっちがわに置き去りにして
エメラルドグリーンのひとみで歩いてゆく。





2007/03/04
"color of the communication"