きらいになった?
[送信しました] 恐らく通り雨だろうと思う。 頭上で鈍い音が連続で響く。 だらりと伸ばした脚にも大きな雨粒が落ちる。 もう…冷たいとも痛いとも思わないのはなんでだろうなぁ。 後ろからは、大物女優が妊娠しただとか また政治家が下らない事に税金を使っただとか つまらないことばかりを如何にも楽しそうに話す声。 ひとり言みたい…電力の無駄だと思いながらも体が動かない。 視線の先では黒い雲が微かな動きを見せている。 あの日もこんな嫌な天気だったな、なんて 思い返しては目の奥がつんと痛む。 涙腺を刺激する虫か何かだと思う。 例の仕様もない文章を送信した筈の精密機器は やはり無機質に微動だにしない。 [きらいになった?]だって。くだらない。 そんな事、あの日わかっていた事なのに。 遠くに、本当に遠くに、黒い雲の切れ目が見えた。 其処は青で、黒い雲を"闇"と例えるなら、正しく"光"だろう。 さっきの痛み、目の奥の、涙腺を刺激する"アレ"が 再びわたしを襲う。だけど今度はさっきより強く。 涙で遠い青が滲む。 その青の元へ走り出したいという衝動に駆られた。 だけどわたしにはそんな力さえない。 ただ例の"精密機器"を手にとって立ち上がるだけしか出来なかった。 ポツポツ、というより、ボタボタというに近い音が鳴る。 顔には涙か雨かわからない液体が流れていた。 "さみしい"とか"くるしい"よりは、"無"に近い空虚が襲う。 [きらいになった?]だって。くだらない。 忘れてほしくないだけだった。 わたしのこの文章をあのひとが読めばそれでよかった。 きらいになっていてもよかった。 黒い雲と遠い青が、"忘れないで"を掻き立てた。 2005/06/20 ASIAN KUNG-FU GENERATION "終わりと始まりを流した涙で滲む青 弱い痛み" * joint:ALL MUSIC FES'2005 |