「過去に戻れたらいいと思わない?」


about Time Machine


わたしが呟いた言葉に、健二はすこし笑った。
窓から入ってくる風は、少し秋を感じさせる風だった。

「思わない、事もないけど」
「わたしはすごく思う」

曖昧な彼の返答を遮るように、即座に自分の意見を言った。
俯くと半分も減っていないお弁当が目に映った。
食欲はわかない。

「だけど過去は戻せないし、過去のお陰で今があるんだし
 今がいつか過去になった時に、"過去の自分は頑張ってたな"って…
 "過去の自分のお陰で今の自分があるんだな"って思いたいじゃん」

健二の顔を見るとまたさっきと同じようにはにかんだ。
理想論かな、なんて呟いて笑う。

「だけど過去のあやまちのせいで
 今のくるしいわたしがいるのかと思うと
 そんなプラス思考に考えれないよ。
 過去のわたしのせいだって思っちゃう」

あの日の事を思い出してまた悔やむ。
奥歯をぐっと噛み締めたら、涙が出そうになった。

「じゃあ僕と出会った事を君は後悔してる?」

思いがけない質問だった。
まるで愚問だ。こんな事を言えるのは健二しかいないのに。

「そんな訳ないでしょ、何言ってんの!?」
「もし過去に戻られたとして、過去を変えられたとしたら
 君と僕は出会わなかったかもしれないんだよ。
 それでも君は過去を変えたいと思うの?」

なんだか、胸に何かが、ぐさっと刺さったような気がした。
過去は変えたい。だけど君に出会えないのは絶対にいやだ。

だけど…

わたしは過去を変えたいと思う。
こんなわたしを作ってしまったのは過去のわたしなんだから。
あの日のわたしのせいだ、みんな、わたしのせいだ。

「変えたい、よ…」

嘘をつけば良かったと思った。
"過去を変えたいと思う"と言う事は、
彼と出会う事よりも安全で平凡な道の方が大切だという事だ。

わたしは、なんて、愚かな…

「だけど過去は変えられないんだよ。
 君と僕は出会ってしまったし、
 起こってしまった事は変えられないよ。
 過去を認めて前を向く方がもっと大切だ」

健二はわたしの頭に、やさしく手を置いた。
やっぱり、嘘をつかなくても良かったんだと思った。
彼の温かさに、わたしの涙腺はぎりぎりだった。

「健二は、強いね…わたしは過去を認めるなんてできないよ…」

あの日の事が蘇る。
離してしまった手。帰らないあの人。
届けられなかった想いと、届けようとしなかったわたし。

「違うか…わたしが弱いんだ…。
 自分の事も認めてあげられないなんて…本当に弱いひとだよね…」

遂に涙が雫になった。
彼はわたしの頭を撫でてくれた。

「僕が側にいるから、君は弱いままでもいいんだよ」

わたしはやっぱり、過去には戻らないよ。
誰も知らない未来に向かって歩いてゆくと決めた。

わたしのすきな、大すきな、君と共に。





2005/08/20

タイムマシーンについて(ミニアルバム"初恋サンセット"収録)
メレンゲ
"ボクの「本当の言葉」はたぶん人を嫌な気持ちにする"