長所

去年の11月、B高校の受験(面接)の時、長所を聞かれて、あたしは答えられませんでした。あたしに良いところなんてひとつもない。誇れるものも、自慢できることもなにもない。ああ、あたしって、何も持ってないんじゃないかって思ったら、泣きそうになって俯いてしまいました。

それからあたしは、自分の長所をがんばって探すことにしました。その後、2月にO高校の面接を控えていたから、また同じ質問をされた時、答えられなかったら落ちちゃうと思ったから。お母さんや境さんといっぱい話して、あたしの長所はなんだろうって、良いところはどこだろうって探しました。2人はとてもやさしくて、「良いところいっぱいあると思うよ」って言ってくれて、いくつか挙げてくれました。だけどあたしは何にもピンとこなくて、そんな綺麗な言葉を並べられたってあたしには当てはまらないって思ってました。だけどとりあえず、何か模範解答を考えておかないと、本当に聞かれた時に、またB高校の時のように黙り込んでしまうから、とりあえず「すきな事に対しては一生懸命努力する」という文章を作っておきました。

2月23日、O高校の受験日。面接は意外とリラックスして喋れてて、だけど「長所来るな! 聞くな!」って思ってました(笑) そんなあたしの祈りは無常にも砕けて、「長所と短所を含めて自己PRをしてください」という面接官の言葉。オーイ!!(笑) 「出たな!」と思いました。台本通りに境さんと一緒に考えた模範解答を言ったあと、なんか、薄っぺらいなあと思ってしまいました。本当にこれで良いのかなあ?って。これはあたしの言葉じゃない気がする、あたしの、本当の想いじゃない気がするって、思ってしまいました。だからあたしは、「実は…」と言って続けました。B高校で長所を聞かれて答えられずに泣きそうになった事、そのあと逃げずに自分と向き合って、お母さんや境さんの協力を得て、長所を見つけようと努力した事。逃げる事は、簡単だった。「きっと長所なんか聞かれないよ!」って、向き合わないで祈るだけなら簡単だった。だけどあたしは、"がんばって向き合わなければいけないんだ"と思ったんです。ああ、これが本当のあたしの言葉で、あたしの想いだ、って思いました。だからそれを隠さず全部言いました。

「向き合う事が、本当に怖くて、大嫌いだったんです。友達と向き合うにしろ、家族と向き合うにしろ、そして…自分と向き合う事も。だけどここは、逃げちゃいけないんだなって思ったんです。臨床心理士の方(境さん)とたくさん話して、苦しい時もたくさんあったけど、がんばって向き合いました。あたしはこの2年前で、自分や他人と"向き合う事"が出来るようになったと思っています。だからあたしの長所は、"向き合えるという事"です。」

全部言い終わったあと、涙が出そうになった。あたしのこの2年は無駄じゃなかったんだなって。逃げ惑って、泣き叫んで、存在証明の鐘を鳴らす事すら出来なかったあたしは、いまは胸を張って向き合ってる。そう思ったら、なんだかとても、清々しい気持ちになりました。"とても素敵な長所だと思います"って、試験官の方が言ってくださったから、満面の笑顔で"ありがとうございます"って言えました。

あの時、台本通りに言って、それで終わらせてたら、自分の中で一歩踏み出せないまま終わってたなって思います。あたしは向き合う事ができるようになったんだって、思えた事が、物凄い進歩です。いつだって逃げたくなるし、逃げる方が簡単に決まってるけど、またいつか逃げたくなった時に、あの日の"あたしの言葉"を思い出して、ちゃんと真正面から向き合いたいと思います。


2006年3月24日